2026年8月26日、一般社団法人トラスト&セーフティ協会(JTSA)は、Google渋谷オフィスで「詐欺対策カンファレンス Japan 2026」を開催しました。282名が来場し、国内外9か国・3省庁から38名が登壇。日本オンライン詐欺対策アライアンス(JASA)の正式設立と、国内外の連携を発表しました。
JASAは、官民・業界・国境を越えてオンライン詐欺対策の知見や情報を共有し、共同の対策につなげることを目指す、中立・非営利のアライアンスです。JTSAが事務局を担い、事業者、業界団体、消費者団体、研究者、関係省庁、海外の詐欺対策組織などをつなぎます。
オンライン詐欺は、一つのサービスの中だけで完結するものではありません。SNSや広告、SMS、電話などを通じて接触し、メッセージや通話で誘導したうえで、銀行口座や決済サービスを通じて金銭を奪う。その過程には、複数のサービスや業界が関わっています。
被害を防ぐためには、個々の企業による対策に加え、それぞれが持つ知見や情報をつなぎ、詐欺の入口から出口までを通して対策を考える必要があります。
JASAは、2025年5月の「詐欺対策カンファレンス Japan」を契機に、国内でオンライン詐欺対策に取り組む関係団体との協議を重ね、特定の利害に偏らない知見共有の場として構想されました。今回のカンファレンスは、その正式設立と、具体的な連携の取り組みを紹介する場となりました。

午前の部|JASAの設立と、国内外の連携を発表
業界を越えて知見を持ち寄る、JASAの出発点
午前の部は、JTSA代表理事の金谷武明と、JTSA理事・事務局長の田中清隆によるオープニングから始まりました。JASAの正式設立を発表するとともに、既存の業界団体や各社の取り組みを尊重・補完しながら、業界横断で対策を進める活動方針を紹介しました。
JASAは、企業・業界・行政の枠を越えた「ワンチーム」による連携を通じ、日本におけるオンライン詐欺対策の協調プラットフォームの構築を目指します。また、国内外の関係機関との連携を通して、世界と日本の知見を相互に共有し、日本での実践をアジア、そして世界へつなげることで、国際的なオンライン詐欺対策の発展に貢献してまいります。
JASAの設立コンセプト
One Team, Next Move. ワンチームで次の一手を。
From Alliance to Action 連携から行動へ。
Faster than Scam 詐欺より速く。

続いて、GoogleのLaurie Richardson氏と、トレンドマイクロの大三川彰彦氏によるパートナースピーチが行われました。
登壇者
- Laurie Richardson氏|Google VP, Trust & Safety
- 大三川彰彦氏|トレンドマイクロ 取締役副社長
オンライン詐欺対策に取り組む両社から、今回のカンファレンスとアライアンスの意義についてメッセージが寄せられました。

世界の詐欺対策ネットワークとの接続
グローバル接続セッションでは、JASAと海外の詐欺対策組織との連携を紹介しました。本カンファレンスでは、Global Signal Exchange(GSE)、Global Anti-Scam Alliance(GASA)、Global Coalition to Fight Financial Crime(GCFFC)の3機関との戦略的パートナーシップ締結を発表しました。
登壇者
- Lucien Taylor氏|Global Signal Exchange(GSE) CTO
- Katie Miles氏|Global Signal Exchange(GSE) Operations Manager
- Brian Hanley氏|GASA Asia and Pacific Director
- Debra Au氏|GCFFC Chair, Asia Pacific Chapter〈オンライン登壇〉
- 田中清隆|JTSA 理事・事務局長〈モデレーター〉
国内で得られた知見を海外につなぎ、海外で確認された手口や対策を国内に取り入れる。その接点となる連携として、次の取り組みを紹介しました。
- GSEとの連携:GSEを基盤とした、国内外の詐欺シグナル共有を推進します。先行する取り組みとして、IIPPFとGoogleの間では詐欺広告シグナルの共有パイロットを開始しています。
- GASAとの連携:国際的な詐欺対策アライアンスであるGASAによる取り組みの日本での展開への協力や、国内外の最新の知見の共有などで連携を進めます。
- GCFFCとの連携:金融犯罪対策の国際的な枠組みとの戦略的パートナーシップを締結し、海外との連携体制を広げました。
ここでいう「シグナル」とは、不審なドメインなど、詐欺の検知・対策につながる手掛かりとなる情報です。こうした情報を組織や国境を越えて共有することが、被害を防ぐための早期対応につながります。

日本の詐欺の現状と、行政・政策の立場からのメッセージ
続いて、警察庁長官官房参事官の菅潤一郎氏から、日本における詐欺の現状と対策について最新の統計数値とともにご講演いただきました。

来賓として衆議院議員の葉梨康弘氏にもご登壇いただき、官民・業界横断でオンライン詐欺対策を進めるJASAの取り組みについて、「本日設立されたJASAは時宜にかなったものであり、政治、行政も一緒になって皆さんと一緒に活動していきたい」とその意義と今後への期待をお話しいただきました。また、東京都知事・小池百合子氏からはJASA設立の祝福メッセージとご期待をビデオメッセージで頂戴しました。


午前パネル|JASA立ち上げへの期待
午前のパネルでは、Google、トレンドマイクロ、JTSAが登壇し、JASAに期待される役割をテーマに意見を交わしました。
登壇者
- Laurie Richardson氏|Google VP, Trust & Safety
- 大三川彰彦氏|トレンドマイクロ 取締役副社長
- 田中清隆|JTSA 理事・事務局長〈モデレーター〉
変化を続ける詐欺に対し、個々の企業による対策と、業界横断の協力をどう結び付けるか。技術による対策に加え、利用者の理解や行動を支える取り組み、グローバルのスタンダードを参照しながら国内の事情を踏まえた連携を設計する必要性などをテーマに、JASAの今後を考えるセッションとなりました。

海外事例共有|英国・豪州・国連の取り組み
午前の最後には、英国、豪州、国連から、詐欺対策の事例や国際的な課題が紹介されました。
登壇者
- Mike Haley氏|Cifas Chief Executive〈英国〉
- Jayde Richmond氏|National Anti-Scam Centre(NASC)General Manager〈豪州・オンライン登壇〉
- 中富玄氏|国連薬物犯罪事務所(UNODC)政策企画担当官
各国・機関の取り組みを通じて、国内の対策と海外の知見を結び付ける視点を共有しました。国境を越えて活動する詐欺に対し、日本の事業者や関係機関が国際的なネットワークに接続する意義を考える機会となりました。

午後の部|詐欺の「接触」から「送金」までを追う
午前の部で連携の枠組みを示したのち、午後の部ではその連携が具体的にどこで必要になるのかを議論しました。
軸としたのは、詐欺の「キルチェーン」です。被害者への接触から、誘導・孤立化、送金に至るまでを一連の流れとして捉え、それぞれの段階で被害を止めるために必要な対策を考えました。
午後は実務者が率直に意見を交わすため、メディア非公開で実施しました。本記事では、個別の発言や議論の詳細には立ち入らず、登壇者と各セッションの主要論点をご紹介します。
関連セッション|詐欺の現状と対策の全体像を共有
4つのパネルに先立ち、国内外の詐欺の現状と、詐欺のキルチェーンに沿った対策を扱う2つのセッションを実施しました。
「グローバル/日本での詐欺の現状」登壇者
- 本野賢一郎氏|トレンドマイクロ コンシューマソリューションエキスパート部 詐欺対策チーフアナリスト
- Brian Hanley氏|Global Anti-Scam Alliance(GASA) Asia and Pacific Director

「詐欺のキルチェーンと対策の最前線」登壇者
- 松本健太郎氏|LINEヤフー 政策渉外 CBU政策渉外1ユニット リード
- 田中清隆|JTSA 理事・事務局長〈モデレーター〉

この2つのセッションで詐欺の現状と対策の全体像を共有し、続くパネルでは、接触、誘導、被害者心理、決済という各領域に焦点を当てました。
パネル1|デジタル空間の健全な情報流通と官民連携
登壇者
- 石谷寧希氏|総務省 情報流通行政局 情報流通振興課長
- 岡﨑一人氏|一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA) 事務局長
- Dipanjan Chaudhuri氏|Google Industry Relations APAC Lead
- 堀内千保氏|Meta Head of Public Policy
- 久保寺佑季|JASA事務局〈モデレーター〉
最初のパネルでは、詐欺広告や偽アカウントなど、被害者との「接触」にあたる入口対策を扱いました。
審査や検知を強化しても、手口は変化し、別の接点へと迂回します。
各事業者における”点”の対策から、業界横断や官民連携による”面”の対策に発展させていくことが重要であるとの議論が交わされました。

パネル2|誘導手口からターゲット孤立化の未然防止策
登壇者
- 児島芙美氏|警察庁 特殊詐欺等対策室長
- 西田公昭氏|立正大学 教授
- 柘植悠孝氏|トビラシステムズ株式会社 セキュリティリサーチャー
- 竹内司氏|株式会社みずほフィナンシャルグループ サイバーセキュリティ統括部 Vice President
- 木野剛志氏|トレンドマイクロ株式会社 コンシューマソリューション開発部 部長〈モデレーター〉
2つ目のパネルでは、詐欺師が被害者を誘導し、周囲への相談を妨げながら孤立させていく過程に着目しました。
被害者が送金に至る前に、どの接点で介入できるのか。心理学の知見と、金融・通信などの実務の視点を持ち寄り、孤立化を防ぐための対応を議論しました。

パネル3|被害者心理の理解と効果的な啓発
登壇者
- 丹羽典明氏|日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS) 副会長
- 渡邊泰司氏|一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3) 業務統括部長
- Akssenya Beedassy氏|TikTok Outreach & Partnerships, Trust & Safety
- 西田公昭氏|立正大学心理学部 教授〈モデレーター〉
3つ目のパネルでは、被害者心理を踏まえ、注意喚起を実際の行動につなげるための啓発を扱いました。
「自分は大丈夫」と考える利用者にも届く伝え方や、送金などの行動の直前に注意を促すタイミング、相談先につながる導線の設計が主要な論点となりました。

パネル4|決済水際対策の課題と早期情報共有の必要性
登壇者
- 小林優吾氏|金融庁 専門検査官
- Lucien Taylor氏|Global Signal Exchange(GSE) CTO
- Katie Miles氏|Global Signal Exchange(GSE) Operations Manager
- Sophie Lennox氏|Cifas Director of Products
- 植木晋也氏|株式会社メルペイ Trust and Safety Program Management Senior Manager
- 世取山茂氏|元・警察庁警視監(早稲田大学社会安全政策研究所招聘研究員)〈モデレーター〉
最後のパネルでは、金銭が移動する決済の水際に焦点を当てました。
不審な取引を検知しても、一事業者が持つ情報だけでは詐欺と判断することが難しい場合があります。海外の情報共有の仕組みも参照しながら、業界横断で早期に情報を共有するための法的・実務的な条件を議論しました。

一日を通して見えてきた、業界をまたぐ3つの課題
各セッションは異なる領域を扱いましたが、共通して見えてきたのは、対策を一つの企業や業界の中だけで完結させることの難しさでした。
1.入口は分散し、出口は集中する
詐欺の入口は、SNS、広告、SMS、電話などに分散しています。一方、金銭被害につながる出口は、銀行口座や決済サービス、暗号資産などに集まります。
入口と出口を別々に扱うだけでなく、それぞれの接点で得られた情報をつなぎ、被害を止める機会を増やす「詐欺のキルチェーン」全体を把握した上での対策の設計が必要です。
2.被害発生後の情報共有だけでは間に合わない
被害が明らかになってから対応することに加え、被害につながる前の手掛かりを共有することが重要です。
不審なドメインや電話番号、口座など、一つだけでは判断しにくい情報も、異なる事業者の情報と組み合わせることで、早期対策につながる可能性があります。そのための共有の仕組みと運用条件を整える必要があります。
3.国内対策と国際連携を切り離せない
詐欺に使われるインフラや犯罪組織は、国境を越えて存在します。国内で確認した情報を海外につなぎ、海外で把握された手口を国内の対策に取り入れることが求められます。
今回、海外の詐欺対策組織と日本の関係者が同じ場に集まったことは、この接続を進める一歩となりました。
この3つの課題に共通するのは、情報や対策が組織の境界で途切れてしまうことです。JASAは、各社・各団体・行政・海外組織の取り組みを補完し、それぞれが持つ知見を共同の対策へとつなぐ役割を担っていきます。
連携から行動へ|JASAが次に進める取り組み
クロージングでは、JTSA理事・事務局長の田中清隆と、JTSA副代表理事の松田高保が登壇し、JASAの今後について紹介しました。
本カンファレンスでは、3機関との戦略的パートナーシップに加え、JIAA、JC3、NACS、IIPPFなどとの連携体制や、IIPPFとGoogleによるシグナル共有パイロットなどの初動成果を報告しました。
今後は、こうした連携を基に、次の取り組みを進めていく予定です。
JASA Signal Exchange Pilot
GSEを基盤として、国内事業者間および国際的な詐欺シグナル共有のパイロットを開始します。各事業者が把握した手掛かりをつなぎ、業界を越えた早期対策に活用するための取り組みです。
Japan Scam Data Research
日本国内の詐欺実態調査を実施します。認知件数に表れない潜在的な被害も含めて「詐欺のキルチェーン」全体の実態を把握し、対策や政策議論の基礎となる情報を整えることを目指します。
業界一体となった啓発活動
業界一体となり、最新の知見やトレンドを踏まえた実効性のある啓発活動をコーディネーションしていきます。「今、何に気をつけ、どう対策すればよいか」を消費者にわかりやすく伝える取り組みを多くの組織と共同で実施していきます。
Global Anti-Scam Summit Asia 2026への参加
2026年11月10〜11日にバンコクで開催される「Global Anti-Scam Summit Asia 2026」に参加し、日本の取り組みを発信する予定です。海外の関係者との対話を通じて、国際的な連携をさらに進めます。

「詐欺対策カンファレンス Japan 2026」は、JASAの正式設立を発表するとともに、官民・業界・国境を越えた連携が必要となる接点を確認する一日となりました。
JASAは今後、関係省庁との対話を重ねながら、参加する企業・団体や海外のパートナーとともに、知見の共有を具体的な行動へとつなげていきます。
開催概要
| 項目 | 内容 |
| イベント名 | 詐欺対策カンファレンス Japan 2026 |
| 開催日 | 2026年8月26日(水) |
| 会場 | Google渋谷オフィス イベントスペース |
| 主催 | 一般社団法人トラスト&セーフティ協会(JTSA/JASA運営事務局) |
| 後援 | ・日本貿易振興機構(JETRO) ・一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3) ・公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS) ・国際知的財産保護フォーラム(IIPPF) ・フィッシング対策協議会 ・一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA) |
| 来場者数 | 282名 |
| 登壇者数 | 38名(国内外9か国・3省庁) |
| 午前の部 | JASA設立発表、パートナースピーチ、グローバル接続セッション、警察庁講演、来賓挨拶、午前パネル、海外事例共有など〈メディアオープン〉 |
| 午後の部 | 詐欺のキルチェーンに沿った4つのパネルディスカッションと関連セッション、JASAの今後についての紹介〈メディア非公開〉 |
JASAの詳細は、公式サイトをご覧ください。

